AI Security Playbook

解説 / 約16分

AIに渡す情報を、送る前に分ける

承認された業務で実データを使う条件と、加工で足りる場面を分け、添付・保存・連携・共有の違いを整理する。

入門 · 専門知識は不要です。AIに情報を渡す前の考え方から始めます。

読む前の補足
  • 入力・添付・連携で情報がどこへ渡るかを説明する。
  • 実データを使わずに依頼内容を作り直す。
  • 送信を止める条件と相談先を決める。
この記事の目次

長い問い合わせメールを、AIに要約してもらいたい。名前とメールアドレスを消してから貼り付けました。これなら、相手の情報を渡さずに済んだでしょうか。

たとえば本文に、「来月開店する地域で一軒だけの店舗」「担当者の役職」「細かい注文内容」が残っていたら、組み合わせから相手が分かるかもしれません。名前を消す工夫は役立ちますが、それだけで判断できない場面もあります。

この記事は、仕事や個人開発で、顧客の文章・画面・ファイルをAIに渡す人に向けたものです。個人情報は一律に入力禁止、という意味ではありません。承認された業務で必要な実データを使う場合と、加工だけで目的を達成できる場合を分けて考えます。

AIへ文章・画像・資料を送る前にこの返信案、顧客メールを丸ごと渡す必要ある?

個人情報は、一律に入力禁止ではない

会社が承認した用途・情報の種類・契約と設定・保存や共有の条件がそろえば、業務に必要な個人情報を使える場合があります。例えば、認められた配送先の照合では、必要な宛名や住所を使います。

目的と条件に合う、必要な情報を選ぶ

  1. 実データが必要な業務

    承認された配送先の照合など。必要な宛名や住所を使う。

  2. 加工だけで足りる作業

    返信の下書きなど。目的と口調から案を作る。

承認の範囲と必要性を確認します。非学習だけで全データの利用可とは判断しません。

企業向けの契約や学習への非利用は、その判断を支える条件です。一方、「有料版」「学習オフ」という表示だけで会社の許可まで決まるわけではありません。使える用途と実データの範囲は、企業向けAIと個人情報の解説で具体的に確認できます。

ここからの返信例は、実名を渡さなくても仕事ができる場面です。すべての業務で、同じ加工を必須にするものではありません。

名前を隠すことと、渡す情報を減らすこと

まず、AIにしてほしい仕事を一文にします。今回なら「日程変更をお願いする返信を、丁寧な口調で作る」です。その仕事に、顧客の実名や注文番号、実際のメール全文まで必要でしょうか。

仮名化は、実名を「顧客A」などに置き換えること。ほかの情報から元の相手へ結び付く可能性は残ります。ここでの「顧客A」は、法的に匿名化できたという判断ではありません。

情報を減らすのは、目的に不要な事情や細部をそもそも渡さないことです。実際の文面を直す必要がなければ、目的と必要な条件だけを、自分の言葉で説明し直せます。

名前の置換と、情報の選び直しは違う

  1. 名前だけ置き換える

    顧客Aに変えても、電話・所属・細かい事情が残る。

    元の相手へ結び付く可能性

  2. 目的に必要な条件を選ぶ

    返信の目的と口調を渡し、実名や詳細は手元で入れる。

    日程変更 / 丁寧な口調

情報を減らして目的を達成できるか考えます。法的な匿名化の判断を示す図ではありません。

もちろん、契約書の表現やエラーの分析など、細かい情報が必要な仕事もあります。その場合は、必要性だけでなく、情報の所有者、送信の許可、利用できるサービスと条件を確認します。判断できない仕事のデータを、個人アカウントへ移して済ませません。

「学習に使わない」と「保存しない」は別の条件

AIに渡す情報は、いくつかの場面で扱われます。入力を処理するサービス、会話の保存、連携ツール、結果の共有は、分けて考えます。

確認するのは、入力の先の扱いも

  1. 入力・添付

    処理に必要な情報だけを選んで渡す。

  2. 保存・学習の条件

    何を保存し、何に利用するかを別々に確認。

  3. 外部の連携先

    ツールに渡す項目と、送信先の条件を確認。

  4. 回答の共有

    言い換えられた秘密や、共有できる人も確認。

一つの設定だけで全部の条件が決まるわけではありません。

「モデルの学習に使わない」という条件だけでは、会話の保持期間や、接続した別サービスへの送信まで決まりません。逆に、ローカル保存の履歴があることだけで、すべてが外へ公開されたと判断することもできません。

使う製品・プラン・機能の公式資料と、組織で認められた利用条件を照合します。サービスの名前が同じでも、個人向け、業務向け、API利用では条件が異なる場合があります。

安全かどうかを、一つのスイッチで決めない。

「学習」「保存」「連携先」「共有する人」を別々に見ます。確認できない項目は、AIの返答で埋めず、公式資料や管理者へ確かめます。

架空のメールから、依頼に必要なものだけ選ぶ

次は、すべて架空のデータです。名前を置き換えただけのものと、目的に必要な項目だけ選んだものを比べます。ファイルの読み取りも、AIサービスへの通信もありません。

const original = {
  name: "架空商店",
  phone: "DEMO_PHONE",
  detail: "地域で一軒だけの店舗の特別な注文",
  task: "日程変更の返信案",
  tone: "丁寧",
};
const renamed = { ...original, name: "顧客A" };
const brief = { task: original.task, tone: original.tone };
console.log("名前を変えた後も電話項目がある:", "phone" in renamed);
console.log("必要な条件だけ:", JSON.stringify(brief));
名前を変えた後も電話項目がある: true
必要な条件だけ: {"task":"日程変更の返信案","tone":"丁寧"}

trueは、名前だけ変えても電話の項目が残るという結果です。電話番号の見た目を検出する万能なツールではありません。

この依頼なら、たとえば次のように書けます。

顧客へ日程変更をお願いする返信案を作ってください。丁寧な口調で、お詫び、変更のお願い、候補日の相談の順にしてください。実名と具体的な日付は、送信前にこちらで入れます。

実データを渡す前に、仕事を言葉にする

  1. 頼みたいこと

    日程変更をお願いする返信を作りたい。

  2. 必要な条件

    お詫び・変更のお願い・候補日の相談。

  3. 送信前に自分で整える

    実名や日付を手元で入れ、事実と口調を確認する。

架空例です。実際の文言そのものを調べる仕事では、別途必要性と利用条件を確認します。

できた返信が実際の事情に合うかは、送る人が確かめます。必要な条件を減らしすぎて意味が変わったら、実データを丸ごと戻す前に、欠けた条件だけを足せないか考えます。

文章以外にも、渡る情報がある

画面を共有するなら、相談したい部分の外に通知や顧客名が映っていないかを見ます。表計算や文書なら、別シート、コメント、変更履歴なども確認対象です。

添付の解析範囲は製品によって違います。「画面で表示されていないから読まれない」とは決めず、必要な部分だけ別の資料にする方法も考えます。画像の切り抜きも、加工後のファイルを開いて確認します。

見えている部分だけが、送る情報とは限らない

  1. 画面の画像

    周辺の通知、顧客名、別ウィンドウの写り込み。

    加工した画像を開き直す

  2. 文書・表計算

    別シート、コメント、変更履歴、添付の内容。

    必要な部分だけの資料も検討

解析される範囲は製品により異なります。非表示だから届かないとは判断しません。

さらに、回答の共有も一つの送信です。AIが元の情報を言い換えていても、顧客や案件が分かる内容が残っていないかを見ます。「入力を加工したから回答はそのまま公開できる」とは判断しません。

利用者の注意だけでは防げなかった過去の事故

分類:事故の公表。 OpenAIは2023年3月20日の不具合について、一部の利用者に別の利用者の会話タイトルなどが表示され得たと、3月24日に報告しました。不具合は修正されたと説明されています。OpenAIの当事者報告

これは、利用者が名前を消し忘れた事故ではありません。現在も同じ問題があるという意味でもありません。サービス側の不具合の可能性も含めて、仕事に不要な情報は最初から預けないという考え方につなげます。

自分の作業では、3つの視点で確かめる

利用する人:必要な条件を言葉にする

承認された用途と情報の範囲内なら、手順に沿って必要な実データを使います。AIに頼む目的と、必要な情報を分けます。実名や詳細を外した架空例で十分なら、その形を使います。相手の情報を加工したつもりでも、特徴の組み合わせが残っていないか読み直します。

アプリを作る人:実際に送る項目を見る

自作アプリなら、画面の入力だけでなく、裏側で追加する利用者情報やログ、連携ツールへの送信項目も確認します。「全文を送らず要約だけ」と説明するなら、コードやテスト結果でも同じになっている必要があります。会話の写しはログの教材へ。

管理する人:許可と契約を確認する

仕事の情報は、誰が持ち主で、どのサービスへ渡せるかを社内ルール・契約・提供元の資料で確認します。医療・法務など分野固有の条件がある場合も、一律に送ってよいとは判断しません。不明なときは、情報そのものを広めずに担当へ相談します。

AIが警告してくれることもある。でも、文脈までは分からない。

秘密らしい値への警告は助けになります。一方、案件の機密性や顧客との約束は、文字列だけでは判断できないことがあります。警告がなかったことを送信の許可にしません。

送る前と、共有する前に確かめること

  • 許可: 使う業務・情報・作業場所・機能が、承認された範囲と一致している。
  • 目的: AIに頼む仕事と必要な条件を言葉にし、実データが必要な理由を説明できる。
  • 内容: 名前だけでなく特徴の組み合わせ、画像の周辺、添付の別シートや履歴も見直した。
  • 送信先: 利用するサービス・機能と、外部ツールへの送信先を確かめた。
  • 保存条件: 学習利用・保持・閲覧範囲を分け、公式資料と利用条件を確認した。
  • 共有結果: 回答や共有リンクにも、元の秘密や個人を特定できる情報が残っていないか確認した。

次は、アプリの中の情報の動きを見る

業務で実データを使う人は企業向けAIの利用条件へ。AIでアプリを作る人はアプリの仕組みへ。すでに送ってしまった情報が気になる場合は、追加の共有を止め、異常時の対応で対象と相談先を整理します。会話を消すだけで送信先の扱いまで確定したとは考えません。

一次資料

情報確認日:2026年10月24日。入力・保持・共有条件は利用するサービスとプランの公式資料で確認してください。

書いた人

マーケティングの現場から、AIをつくり、仕事で使う側へ。実際に試したことや、つまずいたことを、図解と具体例で伝えています。

この記事のURL:https://nekoai-lab.github.io/ai-security-playbook/learn/ai-data-boundaries/

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次に読む会社が認めたAIで、必要な実データを使うために。個人向け有料版との違い、許可の範囲、保存・閲覧・連携先を具体例で整理する。
読む順番・ルートを見るAIで作って公開する基本
  1. AIに渡す情報を、送る前に分ける
  2. 「学習しない」AIなら、仕事の個人情報を使える?
  3. AIで作ったアプリの、動く場所を知る
  4. AIに「APIキーを設定して」と言われた。どこに入れるのが正解?
  5. APIキーを替えたのに、古いキーが使われている?
  6. ログインと、データを使う権限を分ける
  7. 公開したのは、本当に見せたいファイルだけ?
  8. コードには書いていない。名前やメールは、どこから公開される?
  9. 緑のチェックが付いた。その変更を公開していい?
  10. AIレビューが合格した。その結果を、どこまで信じていい?
  11. AIにデプロイを頼んだ。その認証情報は、どこまでできる?
  12. AIで作ったサービスを、公開する前に確かめる
  13. 外部サービスが止まったら、自分のアプリはどうなる?
  14. 漏えい・異常・消失に気づいたとき、最初にすること

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